1.グローバル入試を分析する
早稲田大学の政治経済学部では、国際社会でグローバルリーダーシップを発揮する人材を育成することを目的とした「グローバル入試」を実施しています。入試の流れとしては、一次試験として英語資格などを含めた書類提出、論文審査、二次試験に面接審査があります。「グローバル入試」と言うからには、帰国子女や海外経験を持つ学生が有利な試験には見えますが、出願書類次第では純日本人であっても合格の可能性が十分に開かれているのがこの入試の特徴です。
2.入試の最大の鬼門は「論文審査」
グローバル入試の鬼門は論文審査に他なりません。この試験で多くの受験生が振り落されています。いくら語学能力が高くとも、日本語で情報を読み取りし、論述することに不慣れでは、合格を勝ち取ることは困難です。では、論文審査を乗り越えるヒントはどこにあるのでしょうか。そこで今回は、2017年度早稲田政経グローバル入試の過去問を解説しながら、解法ポイントをご紹介します。
3.テーマは 「社会を批判的に捉えた課題文」
過去問を見たことのある人でご存じの方は多いかと思いますが、グローバル入試の論文審査では、日本語で書かれた長文の課題文を読み、それに関連する複数の設問に答えていく問題です(現代文と小論文の複合系と言ったら分かりやすいでしょうか)。
2017年の問題のテーマは「シルバー民主主義」です。早稲田大学社会科学部自己推薦入試では2015年にシルバーデモクラシー、2016年に18歳選挙がテーマとして取り上げられるなど、早稲田大学としても出題率が高いテーマと言えます。
そして、早稲田大学のグローバル入試の課題文として例年「社会の常識を批判的に捉えた課題文」が選定される傾向にあります。過去問で言えば、2015年の問題では幸福度について取り上げ、幸福の国ブータンについて疑問を投げかけています。また、2014年には原発の被爆線量の安全の基準について、2013年には日本の貧困について、それぞれ「社会の常識」にメスを入れる問題を出しています。ここから、早稲田大学がグローバルリーダーとして必要な能力として、社会の常識を疑う「批判的な思考力」を要していることが分かります。
2017年の問題においては、「シルバー民主主義」というテーマに関して、「高齢者は実は一概に貧しいとは言えず、むしろ高齢者の生活を一様に保障しようとする厚生年金制度は格差の拡大に寄与している」との主張がなされています。この傾向を分かっているだけでも、文章全体の流れを逃しにくくなるばかりか、予想できるようになります。なお、2013年のグローバル入試で出題された、「相対的貧困」というワードも出てきているので、過去問を解いた方は親近感を覚えたかもしれません。
4.問題文を構造的に読解する。
さて、いよいよ問題文を読解していきましょう。
以下の読解の流れとしては
(1)筆者の主張
(2)主張の根拠①
(3)主張の根拠②
(4)再度、筆者の主張
という流れで進んでいきます。
(1) 筆者の主張
高齢者の生活水準が一様に低いというのは1970年~1980年代の話であり、1990年以降は年金の平均給付水準も上がり高齢者は一概に貧しいとは言えなくなっている。そして、むしろ若者の賃金が伸び悩んでいる。このような状況の中で、公的年金などを通じての勤労世代から高齢者への所得転移を今後も続けていくことは社会的に公平とは言えない。貧しい高齢者を豊かな高齢者が支える、「高齢者世代内の所得再分配」に重点を置いていく必要がある。
(2) 主張の根拠①
高齢者世代において、所得と資産保有額は必ずしも対応していない。所得額だけを見ると貧しく見える高齢者も、金融資産や住宅資産を考慮すると単純に貧しいとも言えない。また、日本は欧米に比べても、資産が住宅資産に偏っており、資産運用力が低い。つまり、日本の高齢者の所得は低いかもしれないが、流動しない資産を多く持っているのである。
(3) 主張の根拠②
日本の平均的な所得格差は確かに高まっているが、この原因は高齢化である。単純に、所得格差が大きい高齢者が高齢化により増えたということだ。ここで重要なのは、所得格差の拡大が単なる見かけの現象であるというだけでない。高齢者世代における所得格差が広がっているのならば、高齢者間の所得の分配が必要だということである。高齢者間の所得の分配に関して最も有効なのは、年金所得課税の強化である。では、なぜ高齢者間の所得・資産格差はそれほどに大きいのであろうか。理由は3つある。
1つ目は、日本の労働市場が企業別に分断されているからである。
同一賃金・同一労働の欧米労働市場と比べ、日本の労働市場は企業別に分断されている。そのため、年齢が高まるほどに賃金の格差が広がるのである。
2つ目は、定年退職後の就労期間の長さである。
定年退職後も働くことで賃金収入のある労働者と、年金だけで暮らす労働者では所得の格差が生まれる。
3つ目は、厚生年金保険制度の仕組み上の特性である。
高賃金者ほど高年金給付が約束される厚生年金保険制度のもとでは、格差は是正されるどころか拡大していく。つまり、年金制度自体に格差を拡大させる要因が内在しているのである。
(4) 再度、筆者の主張
高齢者が相対的に希少であった時代に作られた制度・慣行を、現在の高齢化社会にふさわしいものにするためには、高齢者層に重点を置いた所得の再分配が必要である。その場合に、勤労世代だけでなく、豊かな高齢者が貧しい高齢者を支える「同一世代内の所得移転」が大きなカギとなる。
5.問題文とは、あなたの敵ではなく味方であることを忘れずに!
いかがだったでしょうか。もし問題文をお持ちの方は、いま一度、手元にある過去問の読解に挑戦してみてください。
みなさんは設問に答えていくわけですが、設問の前提として、問題文をよく読むことが重要です。問題文は「挑むべき敵」だと思っている受験生が多いですが、誤解しないように。問題文は「味方にするべき強力な仲間」です。
問題文の理解=問題作成者の意図を知ることでもある。
問題文にはヒントがあふれています。問題文で聞かれていることは何か、傍線部の言っていることは何か、設問で何文字程度が要求されているのかなど、その全てが解答を導き出すためのステップとなります。少なくとも問題文で聞かれていることを正確に読み取れない場合、長時間悩んだ結果、問題作成者の意図を踏まえずに答えてしまう危険があります。問題の答えになっていない、理由を聞かれているのに結果を答えているなどの指摘を受ける受験生はこれに当たります。
また、傍線部の言っていることを正確に読み取ることも重要です。傍線部に関して聞かれている問題の場合、傍線部の意味を正しく理解することで答えに大きく近づくばかりか辿り着く場合もあります。さらに、傍線部の前後に答えまたは答えに準ずる内容がある場合が多いです。
解答の文字数もチェックせよ!
最後に、解答の文字数であるがこれも大きなヒントとなります。前提として、小論文や国語の問題では解答を「過不足なく書くこと」が必要とされます。そのため、文字数の設定としては「要素を上手くまとめて収まる字数」に設定されています。なので、文字数を意識せず楽にかけたら何かの要素が抜けている場合が多いし、逆にどうやっても文字数に収まらなければ余計な要素が入っている場合がほとんどです。
課題文型小論文に取り組む上での3つのチェックポイント
課題文が与えられている小論文では、
① まず課題文をしっかりと読むことで、課題文の要旨と筆者の主張を抑える。
② そのうえで、設問をよく読み、何が聞かれているのかを明確にする。
③ そして、解答の構造を構成した上で解答を書く。
小論文や国語の問題が苦手な受験生の中で、いずれかのステップが抜けているパターンが多いです。また、下記の問題からも分かるように、政治経済学部グローバル入試では、数学に関して統計学基礎レベルの知識は必要とされます。
6.設問と解法について
問1について
問1は、中央値と平均値の違いについて述べる問題です。この問題では、150字という文字数設定と、「筆者の考えを」という文言がポイントです。まず、150字ということから要素は3つほどと考えられます。また、「筆者の考えを」聞かれているので一般的な平均値と中央値の違いを答えるだけでは足りないことが分かるだけでなく、課題文中に答えまたは答えに準ずる内容があることが分かります。
そうして課題文を見ていくと、3ページ目の1段落目に、平均値と中央値の話が出てきます。ここで触れられているように、正規分布であれば平均値と中央値は一致する。しかし、どちらかに偏りがみられる場合、中央値は平均値よりもその偏り側に移動する。
例えば、5,5,5,10,20という5つの数字があったとしましょう。
この場合、平均値は、(5+5+5+10+20)÷5=9
そして、中央値は5個の数のうちの真ん中、つまり3個目の数なので、5となります。
5,5,5,10,20という5つの数の場合、5が3つある側に分布の偏りが見られるので、平均値>中央値となる。
では、これをもとに傍線部の問いを考えます。なぜ、所得格差がとくに大きい場合には、平均値より中央値を取るほうが良いのでしょうか?それは上記の通り、中央値の方が分布の偏りをより顕著に表すことができるからです。つまり、偏りがあるという事実(社会問題)をよりはっきりと示すことができます。
問1の文章化ポイント!
そして、150字の中で要素を3つと考えると
・平均値は、全ての数の平均をとった値であり、より偏りに左右されないこと
・中央値はデータを小さい順にならべた際に中央に位置する値で、より偏りに左右されること
・所得格差が大きい場合には、中央値の方が格差の大きさを顕著に示すことができること
の3点を解答に入れればよいでしょう。
問2について
A
問題文で述べられている累計相対度数の定義に基づいて、その階級までの相対度数を足していくと、13.2%、39.5%、62.8%・・・となります。
B
問題文で述べられている通りに、データの階級の上方値と、その階級の累計相対度数(Aを参照)を座標に取り、点を結んでいけばよい。多角形と言われているので、原点と最後の点を結んでしまうミスに注意してください。座標の上に線を引く場合、その線上の点はすべて条件を満たすことになってしまうが、ここで原点と最後の点を結んだ線上の点は条件を満たさないので結んではいけない。
小論文や国語の問題として、一見難しく見える問題や聞いたことない単語が出てきても、焦ることなく冷静に問題を読めば必ず解けるようになっています。解けない!と思ったときこそ、冷静に、基本に忠実に1つ1つ進んでみましょう。
問3について
この問題も問1と同じく「筆者の考えを」「150字以内」というヒントがあります。また上でも述べたように、傍線部についての質問に答える形式の問題の場合、前後に答えまたは答えに準ずる内容があります。
では、前後を見てみましょう。
前を見ると、欧米の高齢者世帯と比べた日本の特徴として傍線部の住宅資産の話が挙げられていることが分かる。そして、後ろを見ると、なぜ欧米に比べ日本は住宅に資産が偏るのか、日本としてどのような政策を出していくべきかという話に繋がっています。
では、なぜそもそもここで欧米の高齢者世帯と日本の高齢者世帯の資産配分を比べているのでしょうか。傍線部のさらに前を見てみると、高齢者が一概に貧しいとは言えず、ストック面ではむしろ働き盛りよりも余裕がある、との記述があります。つまり、欧米と日本の高齢者世帯の資産配分を示しているのは、日本の高齢者がストック面で蓄えがあることを表すためです。これを踏まえると、傍線部は日本の高齢者が一見貧しく見えるが一概に貧しいとは言えず、むしろストック面では余裕があるということを表現しているとわかります。
では、これがなぜシルバー民主主義を助長するのでしょうか。
文章の中に「シルバー民主主義」についての記述は案外少ないので、一つ一つ追って行っても答えにはたどり着けます。また、文章冒頭の2段落目、「『シルバー民主主義』には、年金や医療などの社会保障給付が抑制されると、高齢者の生活が脅かされるという見方がある。」との記述があります。
問3の文章化ポイント!
150文字という文字数から
・シルバー民主主義には、社会保障給付が抑制されると高齢者の生活が脅かされるという見方がある
・日本の高齢者は一概に貧しいのではなく、ストック面ではむしろ余裕がある
・しかし、年収だけを見ると貧しく見えるため、シルバー民主主義を助長する
という点を踏まえて解答を作れば良いでしょう。
問4について
「筆者の考えを」という記述から、文章中に答えがあることが分かります。傍線部の問題は、前後に答えまたは答えに準ずる内容があることから前後を見ていく。
すると、傍線部の後ろは高齢者の所得格差を前提として、対策の話がされているので答えに含まれないと予測できる。傍線部の前を見てみると、直前の「高齢者層は他の年齢層と比べてもっとも所得・資産格差の大きな集団であり」という記述が直接的な理由であると分かります。しかし、これだけでは150字に対して要素が足りません。
要素として入りそうなものを探しさらに前を見てみると、日本の平均的な所得格差の高まりは、規制緩和による市場競争の高まりや資本蓄積の結果ではなく人口の高齢化である、との記述があります。また、「所得格差の推移を世帯主の年齢別で見ると、ほぼ一定である」という高齢者の所得格差の根拠も明記されています。
問4 文章化ポイント
よって
・高齢者層は他の年齢層と比べてもっとも所得・資産格差の大きな集団である
・事実、日本の所得格差が拡大しているが、所得格差の推移を世帯主の年齢別で見るとほぼ一定
・日本の所得格差の広がりの原因が人口の高齢化にあることからも、高齢者がもっとも所得・資産格差の大きな集団であると言える
という点を踏まえて解答すれば良いでしょう。
問5について
政経グローバル入試では毎回最後に小論文の問題が出題されます。ある程度の長さがある小論文は、必ず「構成を考えてから」書くようにしてほしいです。家を建てる際も設計をせずにいきなり建て始めることをしないように、まずは設計。自分の小論文をどのような構成で書いていくかを考えましょう。また、小論文にはいくつか使える型があるので整理しておくと良い。ここでは、政経グローバル入試でオススメの型を紹介します。
小論文においても他の問題と同じく、問題文で聞かれていることを正確に理解し、答えることが必要である。
■問5の問題文で述べられていることの整理
・今後高齢化がますます加速していくこと
・課題文でのシルバー民主主義の特徴を整理すること
・シルバー民主主義に対する自分の考えを書くこと
■これをもとに構成を考えると
① シルバー民主主義の特徴の整理(100~150字)
② シルバー民主主義に対する自分の考え(350~400字)
となります。なお、小論文はあくまで自分の主張を論理的に展開することが肝なので、字数の設定は自分の考えを多く取っている。
■課題文で述べられているシルバー民主主義の特徴
・「シルバー民主主義」とは、政治家が当面の選挙に勝つため、増える一方の高齢者の既得権を守ろうとすることである。
・「シルバー民主主義」には、社会保障給付が抑制されると。高齢者の生活が脅かされるという見方も存在する。
・ 高齢者世代内にもっとも大きな所得・資産格差があるにも関わらず、「低年金受給者の生活を守るため、年金給付の平均水準を引き上げる」ことがシルバー民主主義を正当化する最大の前提となっている(4ページ6段落目)
という点をまとめれば良いでしょう。
そして、今度はそれを踏まえた上で自分の主張を書いていきます。なお、この問題では問題文の前半で高齢化が今後さらに拡大していくことが示されているので、シルバー民主主義も拡大していく可能性があることを踏まえた上で主張を組み立てると良いでしょう。
主張は簡単に言えば、賛成か反対です。この問題の場合は、シルバー民主主義への是非を自分の主張の核とします。しかし、ただ賛成反対を述べるのではなく、「現状のシルバー民主主義をどうしていくのか」という対策まで触れると良い回答になります。
■350字~400字の自身の主張をさらに構造的に分けると以下のようになります。
① 自身の主張(賛成、反対)
② 主張の根拠(できれば1つではなく、2つ)
③ 自身の主張に対する反対意見
④ 反対意見の乗り越え、今後の対策
早稲田大学政経グローバル入試では、賛成か反対か主張した上で、その反対意見(自身の立場が賛成だったら反対の人の意見)にも理解を示すことが得点獲得のポイントとなります。なお、この①~④全てを自分の頭で1から考える必要はなく、使えるところでは課題文の主張などを織り交ぜると書きやすいです。
問5 解法例
① シルバー民主主義に反対である
② 高齢者世代内の所得格差がもっとも大きいにも関わらず、シルバー民主主義は現状の所得分布を正確に反映した制度ではない。加えて政治家が選挙に当選するという目的のために、高齢者だけにスポットライトを当てた制度の立案や運用が行われていくのは人民の自由と平等を保障した民主主義に反している
③ 一方で、今後も高齢者が増えていくため、高齢者の意見を政治に取り入れることは少子高齢化する日本においては必要なことであるという意見がある
④ 高齢者の意見を無視するのではなく今まで通り尊重をしたうえで、若者世代の意見も広く政治に反映することが必要である。そのために、選挙でのSNSの効果的な利用による若者の投票率の拡大や、18歳選挙権を契機として学校における政治教育を推進していく必要がある。
というような骨子の作り方ができます。あとは、骨子や自分の作った構成をもとに、肉付けをして文字数内に収めれば良い。政治経済的な単語や、時事(ニュース)で触れられるような単語は積極的に入れていきましょう。また、自身の主張が問われているので、論理性が崩れない範囲ならば主張のオリジナリティを出していくことも加点のポイントとなります。
7.早稲田政経グローバル入試のコツは、本番を想定した問題演習を何度も行うこと。
いかがだったでしょうか。2017年度入試を題材に、解法などについても解説してみました。この記事を執筆する際には、まだ早稲田大学も入試センターから2017年度の過去問を公表していないので、公表がされたら、今度は自力で解けるかどうかもやってみてください。
来年度のグローバル入試を目指すみなさん。合格のコツは練習に練習を重ねることですが、実際にどのような対策法を行えばよいか分からないという方もいらっしゃるかと思います。AO義塾では今年度、入塾生徒8名のうち7名ものグローバル入試合格者を輩出しましたが、やはり合格の決め手となったのは、幾度となく想定問題を解く経験です。
受験するかどうか迷っている、グローバル入試に挑戦したい、実際どれくらいのレベルなのか、どんな想定問題を解けばいいのか、お悩みの方はご相談でも何でもお待ちしております!
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