解答速報!慶應義塾大学総合政策学部「小論文」2016
<問1>
資料1
現在の日本社会は平等社会であるとされている。しかし、比較の難しさはあるが、ジニ係数を用いた所得配分の国際比較を行うとそうではないことが明らかになる。このデータから不平等度が短期間で高まっていること、1980年代後半、1990年代前半では先進国の中で最高の不平等度であること、先進資本主国の中で所得配分の平等な国は北欧や独自の制度を持ったオセアニア諸国であることがわかり、日本の平等神話の崩壊を示唆するものである。
資料2
格差を分析する際には、格差の様々な特徴と要素を区別しなれければならず、所得格差においては労働と資本の格差など全くことなる要素が区別されないジニ係数などの総合指標ではなく分布表のほうが適切である。所得シェアの分布表から、英語圏では2000年から2010年の間に、1910年から1920年の記録的水準まで戻ったこと、日本とヨーロッパは20世紀始めには高水準の格差が拡大し、20世紀を通じて似たような変遷を遂げていったことがわかる。
資料3
努力によって将来を変えることができるか否かは、階層論では世代間移動の開放性・閉鎖性として知られ、親と同じ職業につくか否かを表したオッズ比によって測ることができる。オッズ比でも父の主な職業を出発点とし、子供の現職を到達点とした場合と、子供の40歳時点の職業を到達点とした場合とでオッズ比は変わり、前者ではより開かれた選抜社会と見ることができるが、後者ではより開かれた社会とは言い難い結果となっている。
資料4
格差社会論は、所得や資産の分析に関する領域に留まらず、重要な論点のひとつとして格差の固定化が挙げられる。これは世代間での格差が固定的になり、世代間の階層閉鎖性が上昇しているということである。対数オッズ比を管理職階層で見てみると、管理職の再生産が一時的な弱まりが見られるものの、強まっているということがわかる。つまり、経済状況のいかんにかかわらず管理職の子供は管理職につきやすいということがわかる。
資料5
等価所得による所得配分の平等・不平等を論じる際に重要な変数として家計の構成人員数が挙げられる。日本では家計の厚生人員の減少と高齢単身者の増加が見られる。構成人員の減少は見かけ上厚生水準を向上させているが、高齢単身者の増加所得配分や厚生水準に悪影響を与えている。なぜならば高齢単身者になったことによる年金所得の減少を生み、一人当たりの所得の減少をもたらし、所得分配の不平等化の大きな原因になっているからだ。
資料6
日本のように年齢間の賃金格差が比較的大きい国では人口の構成の変化が所得格差に影響を与える。1997年から1999年までの2人以上の世帯に関するジニ係数を見ると、どの年についても高齢層での年齢内所得格差が大きいこと、年齢別の格差は広がっていないことが読み取れる。かつて日本が不平等に見えたのは単に若者層が多かっただけとも考えられ、これからの低成長・少子化社会では遺産相続が生涯所得格差に大きな影響を与える。
<問2>
同じ視点で分析しても異なる結論に行き着く理由は、まず扱うデータによって得られる結論が異なる可能性が存在することが挙げられる。資料1と2では総合指標と分布表といった扱うデータの違いを見ることができるが、当然ながらデータの構成要素や特徴を入念に区別することが求められ、これらが変化すれば得られる結論も変わってきてしまう。さらに資料1にもあったようにデータの比較以前の問題として、比較の基準設定が難しいという点も挙げられる。適切な基準を設定することができなければ、マクロの視点で見た際に違いが見られなくとも、ミクロの視点で見た際には大きな違いが生まれてしまう、またその逆の現象が起きてしまうこともあるのだ。
<問3>
日本の今後の格差は国際比較では格差は小さくなり、世代間格差、高齢化による格差は大きくなるものではないかと考える。国際比較に関して、これから活躍する新興国が増えると同時に、日本の戦後の歴史と同じ流れを現在の中国が歩んでいったことを考えると、21世紀の新興国は日本と同じ流れを歩むのではないかと考えることができる。つまり、若者の数が増加するとともにそれに伴った世代間格差が生まれる。したがって日本の今後の格差よりも大幅な格差の増大が見込まれる為、日本は国際比較では相対的に格差がなくなっているかのような歩みを見せるだろう。日本国内の格差は資料にもあったようにオッズ比の変化や高齢化による一人当たりの所得の減少によって所得格差の増大が見込まれる。
今後、これらの仮説を実証する為に必要になる調査・分析手法は、日本と海外の所得分布の年代別による変遷を比較すること、マイナンバーによる所得調査により正確な国民の所得を把握した上で、ジニ係数などのこれまで用いられてきた手法に加え、世代別の所得分布による分析、さらに世代別にどのようにして格差が生じているのかといった調査を行うことが必要ではないかと考える。これは、歴史が繰り返されるのかといったことの証明、世代別の格差と同世代同士の格差がいかにして生じるかを明らかにすることで経済情勢による格差なのか、制度による格差なのかが明らかになると考えるからである。